GINZA CUVO

2010年3月アーカイブ

大阪を訪れて

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週末所用があり、新幹線で大阪を訪れた。日頃クリニックに缶詰になりながら手術ばかりしている僕にとって、たまに東京を離れることは良い気分転換になる。新幹線で揺られながら、iPodを耳に外の風景を眺めているだけで、何故かほっとした気分になれる。外の明るい光は明らかに春がすぐそこまで来ているのを知らせてくれる。


車中では何故か新しいアイデアが浮かぶので、旅行中も四六時中持ち歩くノートパソコンに、思いついたことを書き込むようにしている。新幹線”のぞみ”には各席にコンセントがあり、WIFIを用いてインターネットにアクセスすると、まるで自分のオフィスにいるかのように仕事が出来る。


横浜を過ぎる辺りからトンネルの数が増え、途中インターネットが途切れるが、浜松辺りに到達すると一気に土地が開け、インターネット接続が安定する。その後、新幹線は名古屋に向けて直線的に突っ走る。名古屋から岐阜山中を越えながら、京都に到着する頃になると十分な仕事を終え、大阪までの2時間半はあっという間に過ぎ去る。


北海道出身の僕にとって、大阪は馴染みの薄い場所である。高校時代の修学旅行で関西を訪れたこと以外、数回来たことがある程度だ。現代日本社会は東京中心で動いているので、東京にいるだけで用が足りてしまうからだ。


北海道のクラス会ですら北海道ではなく、むしろ東京で行われることが多いくらいだ。また、北海道は関東方面から開拓にやってきた屯田兵がそのルーツなので、言葉もそうだが何かと関東との馴染みが深い。


東京に暮らして10年近くになるが、その間出会った知人も関西出身者はほとんどおらず、東京以外だと北海道、東北、九州出身者が多い。関西文化の中心は大阪であり、この文化は東京文化と融合しないため、同じ日本なのにまるで別の国に来たかのような印象を受ける。


大阪人は情に厚く、それはタクシー運転手との会話などからも感じる。あの関西弁独特の言い回しを聞くと、誰とでもすぐに親近感を持てる気がする。大阪の友人から聞いたが、大阪人同士でも敬語を使うと人間関係がよそよそしくなると言う。僕は性格上、気さくなノリが好きなので、この街の雰囲気はむしろ東京より居心地がよい。


大変光栄なことに、僕のクリニックには大阪や神戸など、関西方面からたくさんのお客さんにお越し頂いている。クリニックでは彼ら彼女たちも敬語(標準語)を話すので、関西出身者であるのを感じさせない。だが彼ら彼女たちの心はとても熱く情に深い。自分たちの街を誇りに思える関西人たちは、とても幸せな人たちだろう。


 先日の夜、仕事帰りの付き合いがなかなか終わらず最終電車を逃した。 時刻はすでに深夜1時をまわっており、今年の冬は例年より冷え込みが強く、一刻も早く帰宅しようと、タクシーで帰ることにした。 

どのタクシーに乗っても都内では料金は一律なので、遠距離を走る場合、少しでも乗り心地が良いほうがよい。そこで、一般的に高級車を使用することの多い、個人タクシーを選んだ。


個人タクシーの運転手さんは70代の初老の男性だった。僕は「今夜も冷えますね。」と答えると、運転手さんは「世の中温暖化だなんて騒いでいるけれど、そんなことはないな。本当に今年は寒いね。」と気さくに答えた。

随分前にハンドルを握るのをやめた僕は、タクシーに乗る機会が多く、タクシー乗車中、運転手さんとちょくちょく会話をする。

だが、運転手さんには話し好きな人と、そうではない人がいるので、今回のようにこちらから挨拶程度に声をかけて、運転手さんが話し好きかどうか探るようにしている。


今回の運転手さんは、どうやら話し好きのようで、こちらの質問にすぐ答えた。タクシーの運転手さんは世相や景気の動向をいち早く察知していることが多い。

何故なら、景気が悪くなると、真っ先にタクシーを使う人たちが減るし、逆に景気が上向くとすぐに乗客が増えるので、情報として迅速なのだ。

だから普段クリニックにこもりきりで仕事をしている僕のような人間には彼らの話が大変貴重な情報源となる。


今回の運転手さんも景気が今年に入っても上向かないという。そこで僕はすかさず、「株価は最近上向き傾向ですよ。」と言うと、運転手さんは「いくら上向きといっても、一万円前後をいったりきたりしているようじゃ、景気がよくなるのはまだまださきだよ。」と的を得た答えが返ってきた。


この運転手さんはマイペースで仕事をしていてるらしい。話を聞くと40年近く個人タクシー営業をしており、仕事は夜12時過ぎにスタートし、翌朝午前10に終えるという。つまり、40年近く昼夜を逆転して仕事をしてきたのだ!

通常、人は太陽のリズムで生活し、太陽が沈むと脳幹部松果体から睡眠誘発物質メラトニンが分泌され、人は眠りに落ちる。海外へ行った時に起こる時差ぼけは、このメラトニン分泌の時差によるずれが原因だ。


だが、この運転手さんの場合、日本にいながら、昼夜を逆にしているので、メラトニン分泌は常に時差ぼけの状態のはずだ。だが、彼は昼の2時過ぎから夜の10時近くまでの8時間をぐっすり眠るという。

人の生理的リズムから言うと、常識を覆す事実だが、人は40年近くもこのような生活を続けると、それも可能となるのかもしれない。

まるで、夜に行動する夜行性動物のような生活だが、昼間では短距離乗車するお客さんが多く、道路の渋滞でそれほど売り上げがはかどらない。

それに比べて、夜は長距離乗車するお客さんが多く、道路が空いているので、効率よく収益が上がるとのことだった。


タクシー運転手さんの中には90歳を超えて現役で仕事をしている場合もあるとのこと。降車する前に「退職しないのですか。」と尋ねると、「年金だけで生活はきないし、何もしないいるとぼけてしまうから、体の動く限り、働いていたい。」と彼は言った。

今晩もきっとどこかで車を走らせているだろうこの運転手さん。僕たち一般人が寝ている時間にも、毎日働いている人たちがいる。



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