GINZA CUVO

2010年1月アーカイブ

フェイスリフトに必要な顔面神経走行

彼の発表はフェイスリフト手術における解剖学的留意点を中心になされた。フェイスリフト手術は顔面神経の走行に熟知している必要があるのは言うまでもない。特に顔面神経側頭枝や下顎枝は側副枝や迂回枝がないため、一度損傷すると不可逆的な顔面神経麻痺を起こすため、決して損傷することのないように十分に注意する必要がある。顔面神経頬枝は多くの側副枝があるため、軽度の損傷では麻痺は起こらない。知覚神経に関しては、額リフトの際、眉毛内側に位置、三叉神経第一枝(眼神経)に含まれる眼窩上神経と滑車上神経の損傷に注意しなければならない。Pasuquale医師の話で興味深かったのは、顔から首にかけての皮膚の厚さの差異についてである。フェイスリフト治療は弛んだ皮膚を引き上げるため、皮膚を皮下組織から剥離する手技が中心となる。その際、皮膚の厚さを考慮して薄い部分はより慎重で丁寧な剥離が必要となる。このように顔の部位によって、きめ細かな治療手技の考慮により、顔面神経損傷等が起こりにくいことや、より良好な結果が得られるとのことだった。

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国際的に行う学術交流の意義

胡医師(大連医科大学第一附属医院、美容整形外科教授)が眼瞼形成に関する解剖、そして張医師(大連大学附属新華医院、美容整形外科教授)が鼻整形に関する講義を行った。受講者のほどんどが中国人医師であったため、中国側の発表は日本語に訳されなかったので、何を話しているかほとんどわからなかった。だが、スライドを使った発表であったことと、医学用語は英語で書かれていたため、言葉がわからなくてもその内容を推測することは可能であった。

美容医療領域の中で容姿の改善を主に行う美容外科は、同じ人種間で意見を交わすことに価値がある。私自身美容外科を始めた頃、少しでも多くの情報を得るため、米国やヨーロッパの学会にちょくちょく足を運んだものだ。ただ、現実的に日本の美容医療現場で直接的に役立つような情報を得ることは少なかった。それは欧米人と東洋人では体質が違うため、用いる治療手技や対象部位自体も異なるからだった。

例えば、私が今から7年前、ポルトガル、リスボンで行った10日間の美容外科研修では、その症例のほとんどが脂肪吸引や乳房縮小術などであった。これは欧米人たちの中高年以降、肥満に陥りやすい体質によるもので、美容外科を訪れる多くの患者さんたちが肥満治療を主体としていたのだ。しかし、日本では欧米に比較すると、肥満は圧倒的に少なく、こういった治療は欧米ほど一般的ではない。

また、ドイツで行った顔面の美容外科的治療は、体部の治療よりは参考になったものの、日本で最も多いと言われる眼瞼形成手技は意外に少なかった。鼻形成では日本で頻繁に行われる隆鼻や鼻翼、鼻尖部縮小などの治療はなく、主に鼻全体の縮小術や鷲鼻修正など、鼻を高くするより、むしろ鼻を低く、小さくする治療がより多く行われていた。もちろん共通点が全くないわけではなく、フェイスリフト治療などは万国共通のコンセンサスがあるのは言うまでもない。しかし、フェイスリフト治療といえども、皮膚の厚さやSMASなど皮下組織の性状、顔面骨格の3次元的構造に配慮した適切な治療が必要となる。したがって、解剖学的構造が類似した同人種間で行うセミナーが、こういった万国共通のコンセンサスがある治療においてもより有益であろう。

銀座CUVOクリニックのフェイスリフト


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実習前セミナー

今回の実習は1泊2日の行程で行われた。日本と大連の時差は1時間ほどであり、午前10時に成田空港を離陸した飛行機は大連時間の昼過ぎに到着した。宿泊先となるホテルは空港からタクシーで20分ほどの大連市街にあり、この会場で夕食後、翌日の解剖実習に向けたセミナーを開催した。中国側からは大連大学医学部の高教授、王教授、4名の講師、米国ハワイ州の米国人医師、Pasquale医師が、そして 日本から私が講師としてセミナーを担当した。高教授は中国美容外科学会の重鎮で、その名は中国全土に広く知れ渡っており、中国美容外科業界で最も著名な医師の一人である。高教授の発表は、従来までの美容外科全般と、この医療の将来への展望についてであったが、長年にわたる実績に基づいた貴重な発表であり、大変参考になった。

次の発表はいきなり私の番であったが、名声ある中国教授陣を差し置いて何故私が先に行うのだろうと疑問に思った。後ほど関係者にその理由を尋たところ、中国では海外から招待した医師に敬意を表するため、招待医師たちを優先的に発表させるとのことであった。私は上下眼瞼を中心に、眼周囲解剖についての発表を行った。日本からは、私を含めて5名の医師たちが参加したが、残り80名近い中国の医師たちは真剣な面持ちで私の講義を聴いており、発表する側の私もかなり緊張した。私の発表は日本語で行ったが、逐次通訳で中国語に訳された。しかし、通訳者との呼吸を合わせるのが意外に難しく、タイミングを合わせるまでしばらく時間を要した。私の発表がどの程度適切に通訳されているか知る由がなかったが、上下眼瞼手術に必要な解剖学的ポイントは伝えたつもりだ。

個性的な米国形成外科医

次の演者は、もう一人海外から招待されたPasuquale医師であった。彼はフェイスリフトに必要な解剖について講演を行った。Pasuquale医師は大変個性的で、一般日本人医師とは大きく異なる生き方や考え方を持っているので、その経歴について説明したいと思う。Pasuquale医師は米国東部出身で、名前から察することが出来るように、イタリア系米国人である。決して裕福な家庭で生まれ育ったわけではないPasuquale医師は、米国軍から支給される奨学金でフィラデルフィアにある医学部を卒業した。米国では医学部が日本の大学院に相当するため、その前に勉強する4年間の理系大学を含めると、医師資格を得るまでに8年という長い年月を要する。また、借りた奨学金はアメリカ軍へ従軍する義務があり、彼は1990年に中央アメリカ、ニカラグアの戦地に出向いている。勇敢なPasuquale医師は戦地に医師として赴任したのではなく、なんとグリンベレーと呼ばれる特殊部隊に志願した。グリンベレーは厳しい訓練で知られ、大半の志願兵が脱落するが、彼は見事合格し、コンバット部隊として前線で戦った強者なのだ。現在50代中半の彼は、ニューヨーク大学医学部附属病院形成外科フェローシップで研修を行い、形成外科の専門医となった。その後、彼は15年ほど前にハワイ州オアフ島で美容外科クリニックを開業し、現在に至っている。

Pasuquale医師の話によると、米国の形成外科専門医研修はかなり過酷だったらしい。彼が専門的に研修したのは、神経損傷を修復するマイクロサージェリー(顕微鏡手術)だった。神経損傷の主な原因は外傷によるので、その研修は救急外来勤務から始まり、不眠不休の研修が何年も続いたらしい。救急外傷を中心とした初期研修が終わると、次は顕微鏡を用いた本格的な微細神経、血管縫合が主体となる。損傷した顔面神経の再接着縫合、神経移植縫合や、離断した手指の神経血管縫合などは、時には10時間を超える根気のいる大手術になる。

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米国の医療体制

ここで米国の医療費について触れてみたいと思う。米国には日本のような国民皆保険が存在しない。では、医療費はすべて自費診療かと思うが、決してそうではなく、米国民の大半は自分たちが勤務する企業を通して、医療保険に加入している。この医療保険を統括しているのがいわゆる、HMO(Health Maintenance Organization)、日本語に訳すと健康維持機構である。

したがって、大半の医療行為はHMOが下した医療費範囲内行うことになり、医師が取得する収入もHMOの采配次第ということになる。Pasuquale医師が言うには、マイクロサージェリー専門医師の給与は、その過酷な労働に決して見合うものではないらしい。彼がこの分野から美容外科へ転身した理由の一つは、完全自由診療である美容外科では仕事内容に見合った収入が得られる合理性を見いだしたからだそうだ。これは我が国も同様で、国民皆保険下ではどんなに過酷な勤務を強いられても、原則的にその努力や成果は報酬として評価されない。それに比べると、美容外科のような自由診療では、報酬等が行った治療に直接的に反映されるため、それがインセンティブ(動機)となり、こういった診療科を選ぶ医師が最近増えているらしい。


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