2022年9月21日
教科書”アイデザイン”執筆作業を終えて
駆け足で診療に邁進したこの10年だったが、最近になって今後の美容外科のあるべき姿を明確化出来た感じ、この医療に対して自信が持てるようになった。この感覚は僕の行う顔面抗老化(アンチエイジング)外科手技が多くの症例を通して、より洗練され安定するにつれ生じ始めた。
ここで飛行機フレーム(機体)を例に挙げて、この事を説明しようと思う。飛行機フレーム(機体)は、現在のエアロダイナミクス(航空力学)理論に従う以上、これ以上進化しないと言われている。その証拠に機体は過去30年以上改善の余地はなく、同じ形状を維持している。したがって機体は、メインテナンスを行う限りほぼ永久的に使用可能で、実際現在世界を飛び回る旅客機の中にも30年前以上前に製造された機体が多数存在する。
僕が行う眼窩周囲・頬など顔面抗老化外科手技は上述の飛行機フレームの如く、完成域に達したと自負している。そこに至るには決して平坦な道のりとは言えず、僕の治療方針・手技に賛同し、治療を受けて頂いた多くのお客様があってこそなので、彼女・彼らに強い感謝を感じている。
僕は幸運にも、当時ほとんど行われていなかった結膜面からアプローチする下眼瞼治療を行った所、この治療を待っていたとばかりに多くのお客様が訪れ、比較的短期間に多くの症例を経験出来た。そして現在の僕には、いくばくかの時間的・精神的余裕が生じたので、下眼瞼治療についてその詳細を見直すことにした。すると下眼瞼領域のみでもこれまで知られていなかった新知見が沢山あることにも驚かされている。
そもそも外科医療の歴史はまだ浅く、19世紀に麻酔が開発されてからようやく外科手術が行えるようになったに過ぎない。その後外科医療が急速に発達したのは、第一次世界大戦で火薬兵器が使われ始め、爆発エネルギーによる外傷治療の必要性に迫られた20世紀初頭になってからである。すなわち外科医療が行われ始めてから現在まで100年余りだが、美容外科の歴史はさらに浅く、長く見ても80年弱なので、まだまだ未解明の事象があって当然なのである。
僕は大学院生時代、担当教授から「医師は疾患を治す臨床医であるとともに科学者でもあります。あなたがどの分野に進んでも、得られた知見を分析・検証する努力を決して怠ってはなりません」と言われた。あの時の教授の言葉を思いだし、技術的に安定した今こそ、漫然と同じ治療を繰り返すのみでなく、僕が培った治療手技を体型づけるべきとの意欲が湧き始めた。次第にそれは眼窩周囲に関する教科書を記載することが僕の医師としての、もしくは科学者としての使命を果たすことだとも閃いた。
そこで僕は過去に記載したホームページ、ブログ、論文を集積し、それらをまとめ直すことで一冊の教科書を記し、その題名を”アイデザイン(眼窩周囲の美容美容外科)”と銘打った。この教科書はすでに刊行され、すでにこの医療に従事する医師たちの目にも触れている頃だろう。僕はこの教科書の執筆作業を通じて、これまで自分が行った仕事を再確認したと同時に、頭の中により堅固な治療体型・論理が根付いたと実感した。
日々遭遇するお客様たちの症状は千差万別であり、全く同様の治療を行ってもその結果には必ず某かの個人差が生じる。逆に得られた治療結果が全く同様であっても、それを受け取る側の個人差によりその評価は異なることから分かるように、美容医療は大変デリケートな側面を持っている。美容医療では、常に良好な治療結果を得るのが至難の業だと言われのは上記理由に他ならない。すなわちこの医療を熟慮なく実践すれば、それあまるで真っ暗な夜道を松明もなしに歩くのと同様に、常におぼつかなさを感じざるを得ないはずである。
だが今回僕は、この教科書(”アイデザイン”)を執筆したおかげで、夜道を歩くのに松明を得たような自信を感じている。それは今後、様々な症例にお目にかかったとき、たとえそれが困難な症例だったとしても、安定した結果を出せるであろうという確固たる自信である。これが2年半の歳月をかけて、苦労しながら成し遂げたこの教科書の執筆作業から得た僕へのご褒美だと思っている。