2022年9月21日
銀座の片隅で新たに始まった診療
前クリニックは銀座中央通りの7丁目に位置していた。この場所は銀座の中でもいわゆる”目抜き通り”で、きらびやかなブランドショップが軒を連ねていた。毎週末は歩行者天国が催され、多くの観光客や買い物客でにぎわっていた。この通りに面するモンブランビルの7階で5年近く診療をしていたが、その合間に街行く人々をよく見下ろしていたものだ。
数年前、一時的に景気が上向いたときなどは、新たなブランドショップがオープンして長蛇の列を作ったり、おおぜいの中国人の団体観光客がバスでやってきたりした。最近は景気が後退しているが、銀座中心部の優れた点は、逆に景気が悪くなっても安定した活気を失わなないことだろう。
銀座目抜き通りは人並みが多いので、名前を売るためのブランドショップにとって、この場所に店を出すことは大変価値がある。5年前、僕が開業に踏み切ったときも、クリニックのブランドイメージを高めることが大切であると考え、思い切ってこの場所に出店した。
昨年末、モンブランビルとの契約が切れる際、僕は契約更新か、それとも新天地へ移転すべきか熟考した。そこで次のような結論を出した。美容外科はブランド品のように多くの人々に認知される必要はなく、プライバシーを第一優先に行うクローズドビジネスである。だから、銀座目抜き通りにクリニックを構えることが第一優先とならず、移転すべきであると。
新クリニックは銀座中央通りからやや昭和通り側に入った銀座1丁目に位置する。この場所はどちらかというと銀座の外れで、以前のようなきらびやかさはないが、落ち着きを感じさせる。それはこの土地が京橋や宝町など、東京でも伝統的な街並みに含まれるからなのだろうか。
また、前クリニックはビル7階だったが、今度は地上階に位置しているため、街の気配を感じながら診療を行えるのが意外にも新鮮だ。診療合間に散歩に出かけると、この辺りにはじんまりとしたレストランやバー、セレクトショップなどが散在しているがどのお店も一度入ってみたいと思う個性を放っている。これらのお店が古くから固定客を集め、こつこつ営業を続けているのだろうことは容易に想像がつく。
そもそも美容医療に派手な宣伝やパフォーマンスは必要ない。たとえそうった宣伝で一時的に人気を集めても、本当の成功はつかんだとは言えない。本当の成功とは、競争の激しい業界の中で、景気や一時の流行に左右されることなく、自分の仕事に共感していただける顧客を獲得し、安定経営を維持することなのだ。僕のクリニックも銀座の裏通りに並ぶ老舗に仲間入りをさせていただけるよう、良い仕事を長く続けたいと思った。