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美容外科ブログ

2022年9月20日
ある夜の出来事-2

夜の始まり

午後の手術を終え、窓の外をのぞく外はすでに暗くなり始めていた。この地方は4月でも夕方から急に冷え込んでくる。医局に戻ると昼過ぎまで屋根の雪から溶け 出していた水はつらら変わっていた。春が近づき明るくなりつつあある空にはすでに月が明るく輝いていた。雲一つないこのような夜は、冷え込みが一段と厳し なる。 

今 晩の救急当直が平穏に終わることを心の中で祈りながら、 窓の外の冷たい空気を大きく吸い、窓をしっかりと閉めた。夕刻6時過ぎ、外来診察室に降りると、勤務を終えた職員たちが真冬の格好で足早に帰宅している。 病院内は南国のように暖かかく、今晩この中に過ごせることはありがたいとさえ思った。

当直時間中は病院内にいれば、何をしていてもよいが、特に何をすることもない。就寝前であれば、患者さんを診ていたほうが気が紛れるのにと思うくらい、何もすることがない。願わくば、夜中は誰も来なければいいが、往々にして救急患者は夜中に駆け込んでくることが多かった。

当 直室のベッドの上で仰向けになったが、特に眠たくもないのですぐに退屈した。こんな時は入浴するのが一番よい気分転換になる。僕は電話で呼び出されるのに 備えて、入浴室の扉を全開にしたまま、湯船に肩までどっぷり漬かった。この上なく気持ちが良かったが、仕事を終えた後、入浴していると”いつまでこの生活 を続けるのだろう?この先自分は何をすべきなのか?”そんなことが頭の中を駆けめぐった。しかし、いつも答えは見つからないままだった。

気が抜けないのは、救急外来勤務中はいつ何時救急患者がやってくるかわからないことだった。水の音で電話のベルの音がまぎれないよう、僕は耳を澄ましながら入浴する習慣が身についていた。

あ る時、シャワー中に電話のベルが鳴り、 濡れたままの足で 慌てて浴室を飛び出したため、勢いよく転び、自分が怪我をしそうになった。当直着にすかさず着替え、濡れたままの髪で診察することもあったが、地方の救急 外来ではこの程度のことは多めに見てもらえることが多かった。

その後、電話はいつまでたっても鳴らなかった。通常、救急外来当直では、夕方から午後10時頃までに、腹痛や発熱などの患者がやってくることがあったが、この夜はやけに静かで、僕は時間をもてあました。

テ レビをつけて、バラェティ番組を何も考えずに眺めたが、すぐに飽きてあくびやため息ばかりが出た。外を見ると、さきほどまで快晴だった空から小雪が舞い始 めていた。時刻は10時を廻っていた。”このまま何も起こらないで欲しい”、そう祈りながら、電気を消してベッドに潜り込んだ。冷え込みの強い夜は、昼間 より遠くの音が良く聞こえる。

昔、 この地方にはアイヌの集落があったらしい。、半年以上雪に覆われるこの地方では冬の間、農作物を得ることが出来ず、 食料確保のためしばしば山に狩猟に出かけた。鹿などが主な獲物だったが、時には熊を狩猟することもあったらしい。数キロ先の山で、銃などの武器を持たない アイヌの男たちが、熊と戦う様子が鮮明な音を通じてわかったらしい。

熊は体が大きいから、ライオンが大きな獲物を襲うときのように、頸椎など獲物の急所を狙って一撃でしとめるようなことはしない。だから、人間と戦うときも、頭や手足にかじりついて引きづり回すため、悲鳴や骨が砕ける音が聞こえたらしいのだ。

そんな恐ろしい昔話を、僕が担当したアイヌ民族の患者さんから聞いたことがあった。そんなことを思いながら耳を澄ましながら布団の中に潜り込んでいると、遠くに犬の遠吠えが聞こえた。静かに眠れることを祈りながら、目を閉ていると、いつの間にか眠りに落ちた。

夢心地の中でパトカーのサイレンが聞こえ、目を覚ました。夢を見ていたのだろうと思った。一体何時なのだろう?時計を見ると午前4時を廻っていた。また目を閉じ朝まで数時間寝ようと思った。

外は相変わらず静かだった。だが、良く耳を澄ますとかすかにサイレンの音が聞こえた。サイレンの音は夢ではなく、???では現実に何かが起こっていた。全身を緊張感が一気に包み込み、 僕の目は見開いた。

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