GINZA CUVO

2018年5月アーカイブ

極寒のソウル

ソウルは空路3時間弱と日本から一番近い隣国なので、僕は一泊二日の旅でこの地を訪れた。2月中旬のこの時期、翌週からは韓国・ピョンチャンで冬期オリンピックが初開催されるのせいか、ソウルはいつも以上の賑わいを見せていた。

 

だが同時にこの時期朝鮮半島は極寒が訪れる時期でもあり、気温-10℃の極寒風が大陸から東に向かって吹き付け、ほんの10分程度外出するだけでも、生命の危険を感じるほどの寒さに、大陸で暮らす人々の生活厳しさを思った。

 

午前9時に僕は患者さんとシミアン・クリニックにろびーで待ち合わせたが、まだ早朝だったせいか付けたて暖房が効いておらず、クリニック内も冷え切っていたものの、次第にクリニック・スタッフや患者が集まり始め、いよいよ診療・手術が始まる雰囲気が漂い始めた。

 

このクリニックは手術室が3室並列で並んでおり、なんと僕の患者さんが手術室に呼ばれた頃にはすでに他2室で別手術が同時進行していた。院長のドン・ジョンハク医師はその患者の一人を執刀中で、僕は早速その手術を見学させてもらった。

 

鼻専門クリニックでの手術

韓国で一二を競う鼻形成を専門クリニックともなると手術症例がとても多く、手術効率を重視するようで、手術も医師がローテーション形式で行っている。具体的にいうと手術の初期段階、すなわち鼻を展開(開ける)までを担当する医師、次に鼻形成を実際に行う医師、そして閉創(開けた鼻を閉じる)医師の三人が一人の患者を担当している。

 

つまり、第1手術室で鼻を展開したA医師は次に第2手術室へ移動、次の患者さんの鼻をすぐに展開し始める。その頃第1手術室ではB医師が鼻形成を開始、そして第2手術室の鼻展開を終了したA医師は第3手術室でで次の鼻展開を行う。その頃第2手術室でB医師が鼻形成を行い、第1手術室で鼻形成を終えた患者さんは新米のC医師が閉創するといった具合である。

 

日本では一人の医師が鼻展開・形成・閉創までの全工程を行うのが一般的だが、ソウルのこの鼻専門クリニックの如く、三人の医師が同時に三人の患者さんをローテーション形式で手術を行うと、1人で全行程を行う形式より一日にこなせる手術件数が2~3倍増えるはずである。

 

経営面からするとローテーション形式にすることで、収益性が高くなるメリットがあるだろうが、一人一人の医師作業がまるでチャップリンの映画”モダンタイムス”で比喩された自動車生産ライン・オートメーション作業の一旦を担うような単純化されたものとなる。したがって、この効率重視の手術形式が全面的に賞賛される訳ではないが、その効率性を見れば大変優れたシステムと言わざるを得ない。

 

出来映えの良い手術結果

僕が同行した患者さんに行われた手術は、鼻形成手術の定石を踏まえた確実なもので、さすが毎日数多くの症例をこなしているだけあって、安定した良好な結果が得られるであろうことはその手技を見学しているだけで容易に判断出来た。

 

そしてこの鼻形成手術自体、さほど困難なものではなかったが、何事もそうだが毎日同様な治療を数多くこなしているほうが、そうではないよりも間違いなく良好な成績が得られることは言うまでもない。

 

それは執刀医のみならず、麻酔を含めた手術準備、手術助手などコメディカルの流れも、良好な手術結果を得るには極めて重要で、そういう流れが淀みのない綺麗な川の如く循環していれば、手術前からその成功は目に見ていると言っても過言ではないだろう。そのような円滑な流れがこのクリニックに存在しているのを僕は本手術見学を通してすぐに察知した。

 

僕が同行した患者さんの鼻形成は当然院長のドン・ジョンハク医師が担当し、手術中彼は僕に患者さんの鼻高・形への意見を求めたが、カウンセリング時からやや控え目な形にすると合意していたので、特に問題なく手術は一気に終了した。

 

患者さんとの僕のクリニックでの再会

ドン・ジョンハク医師は手術の終了間際、にこにこしながら僕に「久保先生はこのあとピョンチャンオリンピックを見に行くのですか?」と尋ねたので「いいえ、他の患者さんたちが待っているので明日日本に戻ります」と答えると「まあ、せっかくの機会なのに!」と驚きながら答えた。

 

手術後患者さんは休憩室に運び込まれ、そこまでで僕の任務も終了となり、僕は患者さんに手術はすべて滞りなく成功に終わったことを説明し、帰国のためソウル金浦空港へ向かった。

 

それから1ヶ月半近くが経過した3月初旬、この患者さんが僕のクリニックを訪れたが、案の定、鼻形は以前と比べて違和感のない自然で美しい形へと改善され、患者さんはその結果に大変満足していた。

 

これにて今回の鼻修正手術は一件落着したが、この症例を通して僕は美容外科医療を扱う医師として改めてさまざなことを学んだ。それは医師は僕もそうだが、良くも悪くも医師として患者さんから常に尊敬される立場にあるせいか大変プライドが高く、自分が限りなく有能だと勘違いしている場合が少なくない。

 

美容医療に携わる医師の戒め

今回最初にこの鼻形成を行った日本のとある医師は、決して多くの症例経験がないにも関わらず治療を強行したため、満足のいく結果に至らなかったのであろう。

 

我々医師はあくまで限られた能力を有した一介の人間であることを自覚し、どんな状況でも必ず良い方向に導ける治療のみをこの医師が引き受けていれば、今回のようなケースに陥ることはなかったはずである。

 

したがって医師たちは、自信のない症例や明らかに経験不足の症例の治療強行を思いとどまる勇気を持ち、そういった症例は今回の僕のようにその道の専門医にお伺いを立てるといった、慎重な姿勢が肝心である。

 

最後に医療は人々を幸福に導くために行っており、決して医師のプライドや儲けの犠牲として患者さんを不幸に導いてはいけないことを我々医師は今一度戒めるべきである。そして診療にあたっては、常に初心に返るくらいの謙虚で慎重な姿勢望むべきと僕は今回の経験を通して改めて考えさせられた。

 

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