GINZA CUVO

2009年5月アーカイブ

長期休暇の理由 4年前の春、僕が自分のクリニックを開業した際、ゴールデンウイーク期間中、患者さんは誰一人来なかった。数名のスタッフとともに、がらんとしたクリニックで何もしないでいると気が滅入った。スタッフと一緒に外に出ると、通りには物凄い数の人がいた。”それなのに、何故クリニックには誰も来てくれないのだろう?”と思った。銀座表通りでは、ゴールデンウイーク恒例の花祭りが開催されていた。感傷的な気持ちで見た、色鮮やかなすみれだけが妙に目に焼き付き、今でも忘れられない。 僕のクリニックでは、ゴールデンウイーク期間中、暦通りの休暇にしている。 一般的に美容外科は、ゴールデンウイークが稼ぎどきと思うかもしれない。しかし、最近の 美容外科治療は低侵襲になっていて、すぐに社会復帰できる程度のものが多い。従って、特にゴールデンウイークのような長期休暇に治療を行う必要もない。 そもそもゴールデンウイークは何のためにあるのだろう?一般的に新入学生や新入社員が慣れない環境で生活を始め、約1ヶ月程経過した頃にゴールデンウイークが始まる。この時期、新人たちは新生活に迷いや悩みが生じ、とまどうことも多く、中にはせっかく進んだ新たな道を投げ出してしまうこともある。 僕の場合、高校卒業後、地方の医大に通うため、実家を離れ下宿生活を開始した。まだ完全に親離れ出来なかった18歳の僕にとって、入学してからゴールデンウイークまでの1ヶ月間、精神的に限界寸前に陥った。ゴールデンウイーク期間、しばらく心を休めることで、ようやく精神的落ち着きを取り戻し学校に戻る気になった。だからゴールデンウイークは、新しい道のりを進めるかどうかが決まる、まさに”運命の分かれ道”となる大切な休暇期間なのだ。 広島県で過ごしたゴールデンウイーク 今年のゴールデンウイーク、僕は広島県の友人を訪れた。その目的は都会を離れ、自然の中でしばらく心を休めることだ。東京から新幹線で広島に向かうと、4時間ちょっと、新幹線は原子力エネルギーを使用するから、二酸化炭素を排出せず、地球環境に優しい。だから僕は国内旅行の際、できるだけ新幹線を利用するようにしている。最新型新線、”のぞみ”のシートには電源がついているので、ノート型コンピューターを持ち込んで一仕事していると、すぐに広島に到着した。 広島は人口70万人の大都会だが、東京に比べるとやはり静かな街だ。新幹線に持ち込んだ折りたたみ自転車を立ち上げて、僕は夜中の広島の街を自転車で走った。広島は瀬戸内海と中国山脈、そしてこの山々から海に向かっていくつもの川が流れる風光明媚な街だ。英国人の友人は、”広島が日本で一番素敵な街”と言うのもわかる気がした。 この街でしばらくのんびりしていると、僕のストレスはすっかり解消された。だが、これ以上休暇が長期になると、仕事に戻りたくなると思った。もし、このままずっと休みが続いたら、自分は何をすべきかと考えても何も浮かばなかった。仕事に戻ると、大変なことも多く、ストレスが溜まり始める。だが、 仕事をすることで、自分の存在価値があるわけだし、充実感も得られる。今後はあまりストレスのたまらない仕事のやり方を身につけることが肝心で、そうすれば長く働き続けられると思った。
経済発展著しいインド 人口11億人のインドの人口の50%以上が30代以下とこの国は非常に若い。現在その中の1億人(日本人の人口数に近い数)程度が携帯電話などの電化製品、そして車などを取得する可能性のある中流階級となっているらしい。残りの10億人は貧困層だが、この貧困層も将来、インドの経済がさらに発展すると中流階級に仲間入りし、消費予備軍となる。この将来性を考えると、インドの経済的発展の可能性とその価値は非常に高い。そのせいか日本からも、ドコモ、トヨタ、東京UFJなど、蒼々たる企業がインドに進出を始めている。 インドの中でも経済が急速に進んでいる街の一つ、ムンバイが映画”スラムドッグ&ミリオネア”の舞台だ。先日見に行ったこの映画、アカデミー賞8部門を獲得したとあって非常に完成度が高く、見応えがあった。そもそも不況続きの米国ではハリウッド映画が衰退しつつある。元気のないハリウッドに資金投入を積極的に行っているのがインドであり、そのためハリウッドでのインドの影響力が強くなっているらしい。 映画の主人公はムンバイのスラム街に生まれ、毎日食べてゆくのがやっとの生活を送っていた。我々日本人にはわからないが、東南アジアなどの発展途上国に行くと、多くの人たちはこのような貧困層といっても過言ではない。この映画の主人公はどんなに貧しくても、まずしさが故の逆境にも負けることなく、純真な心を失わずに成長を続ける。 ここで僕の幼少時代を振り返ってみると、その頃は口に入れるものこそ困らなかったが、決して現代っ子のように物質的に恵まれてはいなかった。だが、今振り返ると、そういう境遇のほうがかえって良かったとすら思える。僕が幼少時代を過ごした北海道の港町、釧路では大量のサンマが毎日水揚げされていた。荷台に大量のサンマを積みこんだトラックが、舗装のされていないでこぼこ道で、ぼとぼととサンマを落としてゆく。落ちたサンマを小学生の僕がランドセルに入れて持ち帰り、それが毎晩の夕食となるような生活だったから、スラムドッグ&ミリオネアを見ていてもあまり違和感がなかった。 映画”スラムドッグ&ミリオネア”から学んだこと ”衣食足りて礼節を知る”ということわざがある。貧困生活に長く身を置くと、大人たちも悪に手を染め始める。中国の北京や上海の郊外を訪れると、手足のない子供たちが物乞いをしている。信じられない話だが、この地域のヤクザたちは故意に子供たちの手足を切り落とし、路上で哀れみを乞いて、お金を稼がせていることもあるらしい。スラムドッグ&ミリオネアの主人公も、同様な悪事を行うヤクザたちと暮らしていたが、そんな悪環境から命からがら逃げ出すことに成功する。 主人公は青年へと成長するが、かつてスラム街だったムンバイ市街はインドの急速な経済発展とともに、あっという間(10年間程)に大都市へ変遷を遂げる。 この映画を見ると感じるが、スラム(インド、ムンバイ市街)にはハリウッド(ロス・アンジェルス市街)に引けを取らないか、むしろそれ以上のパワーがあった。 果たして、このような悪環境で暮らしている人間たちには夢も希望もないのだろうか?映画の主人公の兄はいつの間にかヤクザの仲間入りをし、残念ながら悲しい結末を迎える。 だが、主人公本人はどんなに悲惨な境遇にさいなまれようと、一貫した信念を持ち続け、幸せを手に入れることに成功する。その信念の支えが何であったかは映画を見てのお楽しみだが、どんなに時代や環境が変わっても、人間の魂が輝き続けるには愛の力が必要なのだ。結局、”幸せ”とはその人がいかに恵まれた環境が与えらたかには依存しない。そして、”本当の幸せ”を得るには何を信念とし、いかに充実した人生を生きるかにかかっている。映画”スラムドッグ&ミリオネア”は、僕のように多忙な毎日の繰り返しの中に生きる人間にとって、ついつい忘れがちな”幸せの秘訣”が何であるのかを考えさせる傑作だった。

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