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名医の条件-2(ある整形外科医の例)

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適切な診断能力 ある外科医から聞いた話だが、10人の新人外科研修医がいたとすると、7~8人は平均的な能力、その中の1~2人は外科医として役に立たず、その中の1人が有能な外科医になれる可能性があるとのこと。前述のごとく、外科医として成功するにはいくつかの条件を満たさねばならないので、確率的にはこれくらいが妥当かもしれない。僕が外科研修医として北海道の病院に勤務していた頃出会った有能な整形外科医の例を挙げてみよう。整形外科には主に首や腰の痛みを訴えて患者さんたちがやってくる。ある患者さんがこの医師に次のように訴えた。「先生、腰が痛くて辛いのです。何とかなりませんか?」。医師は「レントゲン写真を見ながら、「うーん、確かにこの感じだと痛いでしょう。骨の間が狭くなって神経を刺激しています。」と答えた。患者さんは「先生、どうしたら良いでしょう?」と医師に問い返した。医師は「痛みの原因は運動不足による腰部筋力の低下が原因です。」と答えた。患者さんは「薬を飲んでもだめですか?なんとかすぐに治してもらえませんか?」医師はここではっきりと次のように述べた。「痛みは時間の経過とともに少しずつ良くなります。ある程度痛みが治まったら、筋力を鍛えるべきです。」と答えた。患者さんは、不服そうな顔をしながら「先生、この痛みのせいで仕事に行くことも出来ません。今すぐなんとかなりませんか?何か良い薬はありませんか?」と訴えた。医師は「薬は気休め程度に飲むならいいかもしれません。しかし、体を丈夫する以外、根本的解決はありません。」と告げた。患者さんはよほど痛かったのか「では手術で治すことはできませんか?」と続けた。医師は「手術であなたの痛みを和らげることは不可能です。」とはっきり答えた。 このように医師が患者さんにとって何が必要なのか真実を伝えることは簡単そうで難しい。病院の売り上げを重視し、気休め程度の薬をたくさん処方し、必要のない検査や効果のない治療を行うのが一般的だから。しかし、いくら治療を行っても、良い結果が出なければ次第にその医師の評判は落ちてゆく。つまり、利益優先に治療を行うと、患者さんの数が減少し自分の首を絞めることになる。本当の医療は“急がば回れ。”で、利益に直結しなくとも、患者さんのために一番価値のあることを選択すべきである。そのほうが次第に患者さんの数が増え収益にも結びつくことが多い。名医と呼ばれる医師たちはその辺の事情をしっかりわきまえている。 外科医の決断 次に腰痛と足のしびれを伴う患者さんがやって来た。医師はその患者さんに「足のしびれはいつ頃から現れましたか?」と問うと、患者さんは「3ヶ月前頃から現れて次第に悪化しています。」と答えた。医師はMRI所見を観察した後診察を行い、その診断結果を患者さんに次のように述べた。「○○さん、診断は腰椎椎間板ヘルニアです。骨と骨の間の椎間板が神経を圧迫しています。」患者さんは不安そうにMRI写真をのぞき込みながら「先生、治す方法はありますか?」と尋ねた。医師は「ヘルニアは完全に飛び出していますから、症状を改善するには手術が必要となります。」と告げた。患者さんは「手術ですか・・。」と絶句した。患者さんは続けて「手術失敗の可能性はありますか?」と医師に尋ねた。医師は「症状が完全に回復しないことや一時的に足先にしびれが残ったりする可能性はあります。」と答えた。患者さんは「実はヘルニアの手術を受けた後に足が麻痺して動かなくなった人がいるとの噂を聞いたことがあるので、この手術が怖いのです・・。」と言った。医師は一呼吸おいてから、「手術は絶対に安全であると保証はできません。確かにヘルニア手術は不注意に行うと、神経損傷など重大な後遺症を残すおそれがあります。しかし、私がこれまで行ってきた数百例の症例に、そのような後遺症が起こったことは一例もありません。そして、これからも決して起こすつもりはありません。」と言い切った。その後まもなく患者さんは「先生を信じて、手術をお願いしようと思います。」と医師に告げた。 この医師の手術には数ヶ月助手として立ち会せていただいたが、その手さばきは見事だった。一度手術が始まると、流れを崩さず一気に肝心な所まで到達する。ここ一番は集中力を高め一気に乗り切る。上手な手術は常にシンプルで、出来るだけ短時間で終了するものだが、この外科医の手術はまさにその良いお手本となった。 インフォームド・コンセント “ゴットハンド”として有名な脳外科医がテレビのインタビューで、“医師が医療過誤で訴えられるようになり始めてから、医師は患者さんとの間にインフォームド・コンセントと呼ばれる同意書をしっかりと交わすようになりました。しかし、医師が自分の身を守るために用いるようではいけません。”と語った。インフォームド・コンセントとは医師が治療に伴う合併症や後遺症の可能性をきちんと説明した上で、患者さんに治療にのぞんでいただく、いわゆる契約書のようなもの。この契約書で治療に伴う危険性を患者側に了解していただくと、医師はたとえ医療過誤が起きたとしても守られる可能性が高くなる。そのせいか、治療を行う前に医師側がありとあらゆる危険性を述べ、その同意を患者側から得られなければ治療を行わない医師が増えつつある。そういった保身に走る医師の増加への危惧をこの脳外科医はインタビューで述べていた。 医師がこのような保身的態度を示すと、治療を受ける患者さんはこの医師に不信感を示すであろう。その理由は保身に走る医師の本音は自分の医療技術への自信のなさに他ならないから。患者さんが手術のような一大決心をするとき、患者さんは医師に全信頼を寄せている。その際、手術を行う医師は我先に自分を守ろうとするのではなく、行うべく手術に対して医師自身の人生をかけて行うくらいの決意が必要となる。そんな覚悟で毎回手術を行えば集中力がとぎれず、決して失敗することはない。名医は医療への情熱を失わない、ハートの熱い医師たちから生まれる。そして、その情熱は深い人間愛に基づいていてこそ本物の名医となれるに違いない。

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