GINZA CUVO

2007年12月アーカイブ

有能な外科医になるための条件はいくつもあることを前回までに述べてきた。では美容外科医の場合はどうだろう?美容外科医が一般外科医と異なるのは、美容領域ではいわゆる患者さんを治療するのではなく、健常人を対象とすること。したがって、有能な美容外科医は一般外科医に必要とされる条件を満たすだけではなく、それ以外にも必要とされる資質がある。では、以下にその代表的条件を列挙してみようと思う。 1) 美容外科医は手術が上手いだけでなく、コミュニケーション能力が優れている。 昔、勤務した一般外科系病院にはたくさんの医師が所属していた。こういった病院では診察、検査、手術が同時進行で進む。外来診察を受けた患者さんで手術治療が必要となったとする。しかし、この病院では手術はこの患者さんの外来診察をした医師と別の手術専門医師が行っていた。つまり、外来診察医と手術専門医が別々に存在することになる。こういった場合、外来診察医は患者さんとのコミュニケーション能力に優れているが、手術をする能力に欠ける。逆に手術専門医は、外来診察医が次々と手術患者を廻してくれるのでコミュニケーション能力がなくても外科医としてやっていける。こういった手術専門医は黙々と作業を行う職人のように手術を行う。したがって、手術専門医は患者とのコミュニケーション能力面を伸ばすことができない。 これらの外来診察医と手術専門医は二人一組で、外科診療の初めから終わりまで完結するので、このような医師がどちらか一人では開業医としては大成功できない。この両方の能力を兼ね備えることは一見容易そうで実は大変難しい。人はコミュニケーション(会話)能力と手先を使う脳部位は異なるためか、両方を同時に発達させるのは困難なのだ。美容外科医は開業医として診療を行うことがほとんどである。つまり、美容外科医はコミュニケーションと手術の両方の能力を備えていなければならない。この一点からだけでも、美容外科医として成功するのはかなり難しいことがわかる。 2) チャレンジ精神旺盛である。 一般診療の場合、治療は医師がチームを作って行う。その際、若手研修医は経験豊富な指導医に指導されながら実力をつけてゆく。美容外科診療は比較的新しく大病院や大学病院で行っている場所がいまだ数少なく、しっかりとした研修を受けることが難しい。美容外科医として実力をつけてゆくには、少ないチャンスを見逃さないようなガッツと学会などに積極的に参加する姿勢が肝心である。美容外科医は一人で診療することがほとんどなので、実力をつけた後、すべての診療行為に対して、自分一人の医師で全責任を持つ覚悟が必要である。 3) 人気があって、運気が良い。 人気や運気はどのような仕事でも成功するために必要な要素である。美容外科の場合、どちらかというとサービス業的な要素が強い。したがって、美容外科医が良い雰囲気を醸し出しながら良い仕事を続けていると、お客さんが自然と集まり繁盛する。逆にどんなに最先端の技術を習得していたとしても、その医師の持つ運気が悪いと思ったように物事が進まないことがある。かつて勤務していた地方病院に都会の大病院から中堅の外科医が転勤してきた。僕はそのとき“おやっ、どうして都会から地方の病院にやってきたのだろう?”と、ふと思った。就任して間もなくこの医師は、腰痛を訴える70歳の男性を担当した。患者さんの腰痛の原因は腰椎椎間板ヘルニア、手術治療が必要と診断された。早速手術が行われ、手術は何一つ問題なく終わったかのように見えた。しかし、この患者さんは手術終了後、症状が改善しないばかりか、手術を受けたほうの足が動かないと言う。この外科医は手術に誤りはなく、適切に終わったと主張した。腰椎椎間板ヘルニアの手術は、僕も整形外科医の時にちょくちょく行ったが、慎重に行えば決して足が麻痺するなどの副作用が出たりはしない。この中堅外科医は“しばらく様子を見るしかない。”と患者に説明したが、患者さんの表情はどことなく不安そうだった。 時間が経過しても患者の症状は一向に改善しないため、ほかに原因がないか全身検査を行った。すると手術が行われた部位とは異なる脊髄部位に腫瘍らしき影が映っていた。さらに検査を進めると、その影はなんと前立腺がんの転移巣であることが判明した。結局、その外科医の治療は何ら問題がなかったのだが、患者さんの家族は“手術前に動いていた足が手術後に麻痺したのは手術のせいだ。”と決めつけ、手術を行ったその医師に強い不信感を抱いていた。風の噂によると、この医師の手術には過去にも同様な事故が起こっていたらしい。この例のように、偶然と思えない不慮の出来事が重なるのは、その人間の運気の良し悪しとしか言いようがない。美容外科医として無難に手術をこなしてゆくには、すぐれた治療技術とともに良い運気を身につけるこがとても大切である。 4) “医療は患者さんのためのもの。”という大原則を忘れない。 一般的外科医の究極目標は、いかにレベルの高い最新の手術を行えるか、もしくは新手法を開発できるかであろう。しかし、美容外科医の場合はそれ以上に大切なものがあることを忘れてはいけない。どんなに高いレベルの手術を行えても、それが患者さんに役立たなければ全く意味がない。ここでわかりやすい例をあげてみよう。美容外科領域において、同様の結果を求めた二つの治療方法が仮にあったとする。得られる結果はほとんど変わらないとして、一方は簡単かつ短時間で終了する。もう一方は複雑かつ長時間かかる。どちらが良い治療であろうか?もちろん、前者であることは言うまでもない。何故なら簡単かつ短時間で終了する方が、腫れが少なく回復が断然早い。しかし、高い技術を習得することを目標とする外科医にとってはどうだろう?それは、患者さんにとっては驚くべき事実であろうが、後者を選択する外科医も少なくない。美容外科領域において本当に大切なことは何であろうか?繰り返しになるが、医療が患者さん中心のものである大前提に立つと、簡単で短時間で終了する手術の方が優れていることに他ならない。 5)“本当の美しさ”を知る。 美容外科医にとって技術より大切なことがある。それは“本当の美しさを知る”こと。“美しさ”とは何かを常に知る努力を惜しんではいけない。女性を主たる治療対象にする美容外科医は、彼女たちが望む“あくなき美への欲求”を満たし続けなければならない。そんな彼女たちにとって、手術技術がどうであるかは二の次、結果さえ良くて早く回復すれば文句はない。そこに手術技術を誇る外科医のプライドの出る幕はない。では“本当の美しさを知る”にはどうしたらよいのだろう?これはフランス美容外科医の大御所から聴いた話だがそれは美しさに感動する以外にない。可憐な女性が目の前を偶然に通り過ぎた時に感じた“はっ”する思い、喜び溢れた少女の笑顔の可愛いらしさ、対象は人間だけではない。野に咲くバラの花から落ちる朝露や、真っ赤に染まった夕日でもいい。美しさに感動したとき、その感動の原因を心に留めるようにしていると、“本当の美しさ。”が何か分かるようになる。つまり、美容外科医にとって“美しさの感受性”を有する方が、最新技術を習得するより、むしろ大切と言っても過言ではない。 これまで述べてきたように、美容外科医として成功するのは並大抵のことではない。最新外科手術の習得に精進してもまだ足りない。“魅力ある人間として成長し続ける”、これこそが美容外科医として成功する最大の秘訣であろう。
適切な診断能力 ある外科医から聞いた話だが、10人の新人外科研修医がいたとすると、7~8人は平均的な能力、その中の1~2人は外科医として役に立たず、その中の1人が有能な外科医になれる可能性があるとのこと。前述のごとく、外科医として成功するにはいくつかの条件を満たさねばならないので、確率的にはこれくらいが妥当かもしれない。僕が外科研修医として北海道の病院に勤務していた頃出会った有能な整形外科医の例を挙げてみよう。整形外科には主に首や腰の痛みを訴えて患者さんたちがやってくる。ある患者さんがこの医師に次のように訴えた。「先生、腰が痛くて辛いのです。何とかなりませんか?」。医師は「レントゲン写真を見ながら、「うーん、確かにこの感じだと痛いでしょう。骨の間が狭くなって神経を刺激しています。」と答えた。患者さんは「先生、どうしたら良いでしょう?」と医師に問い返した。医師は「痛みの原因は運動不足による腰部筋力の低下が原因です。」と答えた。患者さんは「薬を飲んでもだめですか?なんとかすぐに治してもらえませんか?」医師はここではっきりと次のように述べた。「痛みは時間の経過とともに少しずつ良くなります。ある程度痛みが治まったら、筋力を鍛えるべきです。」と答えた。患者さんは、不服そうな顔をしながら「先生、この痛みのせいで仕事に行くことも出来ません。今すぐなんとかなりませんか?何か良い薬はありませんか?」と訴えた。医師は「薬は気休め程度に飲むならいいかもしれません。しかし、体を丈夫する以外、根本的解決はありません。」と告げた。患者さんはよほど痛かったのか「では手術で治すことはできませんか?」と続けた。医師は「手術であなたの痛みを和らげることは不可能です。」とはっきり答えた。 このように医師が患者さんにとって何が必要なのか真実を伝えることは簡単そうで難しい。病院の売り上げを重視し、気休め程度の薬をたくさん処方し、必要のない検査や効果のない治療を行うのが一般的だから。しかし、いくら治療を行っても、良い結果が出なければ次第にその医師の評判は落ちてゆく。つまり、利益優先に治療を行うと、患者さんの数が減少し自分の首を絞めることになる。本当の医療は“急がば回れ。”で、利益に直結しなくとも、患者さんのために一番価値のあることを選択すべきである。そのほうが次第に患者さんの数が増え収益にも結びつくことが多い。名医と呼ばれる医師たちはその辺の事情をしっかりわきまえている。 外科医の決断 次に腰痛と足のしびれを伴う患者さんがやって来た。医師はその患者さんに「足のしびれはいつ頃から現れましたか?」と問うと、患者さんは「3ヶ月前頃から現れて次第に悪化しています。」と答えた。医師はMRI所見を観察した後診察を行い、その診断結果を患者さんに次のように述べた。「○○さん、診断は腰椎椎間板ヘルニアです。骨と骨の間の椎間板が神経を圧迫しています。」患者さんは不安そうにMRI写真をのぞき込みながら「先生、治す方法はありますか?」と尋ねた。医師は「ヘルニアは完全に飛び出していますから、症状を改善するには手術が必要となります。」と告げた。患者さんは「手術ですか・・。」と絶句した。患者さんは続けて「手術失敗の可能性はありますか?」と医師に尋ねた。医師は「症状が完全に回復しないことや一時的に足先にしびれが残ったりする可能性はあります。」と答えた。患者さんは「実はヘルニアの手術を受けた後に足が麻痺して動かなくなった人がいるとの噂を聞いたことがあるので、この手術が怖いのです・・。」と言った。医師は一呼吸おいてから、「手術は絶対に安全であると保証はできません。確かにヘルニア手術は不注意に行うと、神経損傷など重大な後遺症を残すおそれがあります。しかし、私がこれまで行ってきた数百例の症例に、そのような後遺症が起こったことは一例もありません。そして、これからも決して起こすつもりはありません。」と言い切った。その後まもなく患者さんは「先生を信じて、手術をお願いしようと思います。」と医師に告げた。 この医師の手術には数ヶ月助手として立ち会せていただいたが、その手さばきは見事だった。一度手術が始まると、流れを崩さず一気に肝心な所まで到達する。ここ一番は集中力を高め一気に乗り切る。上手な手術は常にシンプルで、出来るだけ短時間で終了するものだが、この外科医の手術はまさにその良いお手本となった。 インフォームド・コンセント “ゴットハンド”として有名な脳外科医がテレビのインタビューで、“医師が医療過誤で訴えられるようになり始めてから、医師は患者さんとの間にインフォームド・コンセントと呼ばれる同意書をしっかりと交わすようになりました。しかし、医師が自分の身を守るために用いるようではいけません。”と語った。インフォームド・コンセントとは医師が治療に伴う合併症や後遺症の可能性をきちんと説明した上で、患者さんに治療にのぞんでいただく、いわゆる契約書のようなもの。この契約書で治療に伴う危険性を患者側に了解していただくと、医師はたとえ医療過誤が起きたとしても守られる可能性が高くなる。そのせいか、治療を行う前に医師側がありとあらゆる危険性を述べ、その同意を患者側から得られなければ治療を行わない医師が増えつつある。そういった保身に走る医師の増加への危惧をこの脳外科医はインタビューで述べていた。 医師がこのような保身的態度を示すと、治療を受ける患者さんはこの医師に不信感を示すであろう。その理由は保身に走る医師の本音は自分の医療技術への自信のなさに他ならないから。患者さんが手術のような一大決心をするとき、患者さんは医師に全信頼を寄せている。その際、手術を行う医師は我先に自分を守ろうとするのではなく、行うべく手術に対して医師自身の人生をかけて行うくらいの決意が必要となる。そんな覚悟で毎回手術を行えば集中力がとぎれず、決して失敗することはない。名医は医療への情熱を失わない、ハートの熱い医師たちから生まれる。そして、その情熱は深い人間愛に基づいていてこそ本物の名医となれるに違いない。
外科医は職人 最近テレビ等で名医特集が人気らしい。名医とは難病を次々と治す優れた能力を有する医師たちである。その中で名外科医たちが行うのは卓越した技を用いた手術となるが、その技を持った外科医を巷では“ゴットハンド(神の手)”と呼ぶらしい。先日出席した韓国美容外科学会で、韓国を代表する若手医師に僕は次のように尋ねた。「韓国で一番優秀な医学部はソウル大学と聞いています。ソウル大学医学部は競争率が高く、入学するのがとても難しいと聞いています。ソウル大学医学部卒業の優秀な先生たちは、この学会に出席していますか?」その韓国人医師は次のように答えた。「いいえ。ソウル大学医学部卒の医師たちはほとんど出席しておりません。彼らは外科医になるには頭が良すぎますから。」と笑いながら答えた。この韓国人医師は半分冗談のつもりで答えたのだろう。しかし、この韓国人医師のコメントは必ずしも冗談と言い切れない。僕がこれまで見てきた名外科医全てが頭脳明晰ではなかった。頭が良すぎる考え過ぎる癖がついていたとすると、手術を円滑に行うことができないことがある。また、常に頭を使う習慣のある、いわゆる“頭の良い人”は意外にも手先があまり器用でなかったりする。むしろ物造り職人のように、頭より手先を常に使って、同じ事を繰り返すことの出来る人のほうが、手先が器用であることが多い。外科医が良い手術を行うには職人同様、“技術やカン”を体得していなければならない。この“技術やカン”医学書には書いていないし、たとえ医学書に載っていたとしても読んだから習得出来るような代物でもない。ではどのようにして手術の“技術やカン”を身につけることが出来るのだろうか?それは物作り職人のように、日頃から手先を用いて繰り返し行う操作から身につける以外に方法はない。手術を上手にこなす外科医も、まさに物作りの職人と同様な能力が必要とされるのだ。 “ゴットハンド”に必要な条件 では名外科医、つまり“ゴットハンド”となるにはどのような条件が必要なのだろうか?“ゴッドハンド”は次のような条件を兼ね備えた外科医が、日頃から鍛錬と努力を繰り返した結果、生まれるのだと思う。 1. 手先が器用である。 手術を上手にこなすには手先が器用でなければいけない。これは持って生まれた才能なので、外科医になるには向き不向きがある。例えば、静止時に手が震えるようであれば、外科医になるのは不可能である。 2. 物事を単純明快に行う能力がある。 手術は簡単で素早く終わる方が、複雑で時間のかかる場合より明らかに結果が良い。人によっては物事を考えすぎて、なかなか先に進まないことがある。 3. 良いオーラを持っている。 手術を受ける側に“この先生であれば信頼できる。”と思わせる自信や雰囲気があることが大切となる。手術は自分の体を任せるので、全信頼をゆだねられなければ、患者さんは不安で手術に踏み切ることができない。 4. 楽観的である。 手術はたとえ完璧に行ったとしても、結果は個人個人で異なる。どんなに良い手術を行っても、患者さんのとらえ方によって必ずしも満足するとは限らない。たとえそのような状況が訪れても、前向きに考えて次々に手術をこなしていくには楽観的な性格のほうがよい。 5. 強運である。 例えば、二人の外科医がいて同様な手術を行ったとする。一方の外科医は問題なく手術を終えたのに、もう一方の外科医が行った手術がこれといった理由がないにもかかわらず、うまくいかないことがある。その理由はその医師の持っている運気の違いとしか言いようがない。 6. 度胸と集中力がある。 手術を成功に導くには邪念を入れず、心を静寂にして集中できる能力が必須である。また、手術中は思いがけないことが起こることもあるが、どんな状況でも動揺せずに、治療を継続する度胸が必要である。 7. 健康維持のための自己管理能力がある。 外科医は百戦錬磨の手術次々にこなしてゆくために、並外れた体力と精神力が不可欠である。心身ともに万全であるためには日頃の健康管理を怠らないことが肝心である。 上記の“ゴッドハンド”のための条件を振り返ると、これらの条件はプロスポーツ選手に必要な条件とほぼ同様と言って良い。スポーツを行うとき、頭を使っている暇はなく、ほとんど反射神経レベルで行う。手術も同様、頭を使うより反射神経レベルで行うほうがうまくいく。つまり、有能な外科医になるためには、あまり頭が良すぎず、考えるよりもまず行動できるほうが向いている。そういった意味で学生時代、スポーツばかりやっていて学業不振だった僕が、外科医を目指したのは正解だったような気がする。

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