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アンチエイジング診療の外-22(内科医と外科医について)

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日本の大学生の悪しき習慣 日本の大学生は厳しい受験勉強から解放され、大学に合格した途端、不勉強になる。僕はまさにその典型だった。医学部に合格するやいなや思った事は「やったー。これで医学部を卒業して医師国家試験さえ通れば、将来は心配しなくていいのさ。父のようにサラリーマンにならなくて済む。」という気持ちだった。父の姿を見て、日本のサラリーマンがいかに過酷かを知っていたからかもしれない。父は年に3日以上続けて休みをとる事すらできないまま、40年以上働き続けていたのだ。僕にはそのような生活は到底出来っこないと思っていた。医師になれば手に職がつくので、そこまで過酷に働くなくても生きてゆけるだろうと漠然と考えた。 日本の大学生の悪しき習慣に従って、僕は不勉強な大学生に陥った。僕は講義室の後方でぶらぶらし、出欠の確認をとるために配られる出席カードにサインするやいなや、講義室を抜け出すような毎日だった。講義室の前には真面目な医学生が常に張り付いて講義を聞いていたのだが、「よくも毎日、退屈もしないで長時間座っていられるものだ。」と感心していた。しかし、僕は講義を抜け出して何かしていたわけではなく、ただ、だらだらと時間を無駄にした。僕が学生時代に心がけた事は必要最小限の勉強のみで試験に合格することだった。席の前方に座っていた連中は試験勉強していたのではなく、勉強が好きで講義にかじりついていた。僕は医科学系の勉強には興味がなかったわけではないが、とにかく講義中、じっとしているのが堪え難かった。 試験前には、前の席に座っていた優秀な女子学生にプレゼントをしてノートをコピーさせてもらった。優秀な男子学生は僕のような不真面目な奴を嫌って、話をするのもやっとだった。僕が彼らからノートを貸してもらうことは到底無理だった。僕はこの経験を通して、男同士はライバルで厳しいが、女性はいざという時は男性を助けてくれることを学んだ。 “猿レベル”だった学生時代 医学部の厳しい生物学教授は一学年120人に10人近くいた僕のような不真面目医学生に対して、「君たちはまだ猿のレベルだ。早く高等な人間になりなさい。君たちの授業料等は国民から集めた税金も使われているんだから、早く態度をあらためて立派な医師になりなさい。そして国民の皆様に恩返ししなさい。」と告げた。その時は「なんだよ、僕たちのことを“猿”呼ばわりして。」と反発したが、今振り返ると、さすが教授だけあって、正しい事を述べていたと思う。しかし、勉強が好きか嫌いかは自分の意思で変えられるものでなかった。これは持って生まれたものであって、僕のこの姿勢は終始変わらなかった。その分、効率よい勉強法を身につけ、他の学生よりずっと短時間の勉強で試験を通り続けた。真面目な学生は「あいつは、本当に要領がいいよ。あんなに勉強もしないでふらふらしているのに、試験だけは通るんだよね。」という僕の噂を聞いた事があった。 6年間の長い生活の終わりには医師国家試験が待っている。これに合格して初めて医師となれるのだが、効率の良い勉強法を身につけた僕は無難に合格した。「不真面目学生には不真面目なりに、国家試験のような壁でも乗り越える方法がある。」と確信した。120人のうち、15人くらいが医師国家試験に不合格だったが、その中には「あいつがまさか落ちるとは。」というような真面目な学生が意外にも多かった。国家試験のような短期集中型の勉強は、僕のように試験に受かることのみ考えて望む方が勝算が高い。 国家試験の合格発表がある頃にはほとんどの医学生が自分たちの進路を決めていた。いつも前方の席に座っていた優等生たちはみな内科や小児科など、常に勉強を続ける必要のある診療科に進んだ。僕と仲が良かった連中は、外科系に進んだ。僕はどうかと言えば、卒業間際にすら進路を決めていなかった。勉強が好きではないので、外科のほうが向いていると思ったのだが、外科は外科で仕事がキツそうだし、雰囲気が軍隊のように封建的な外科の医局体制に自分が適応できるか不安だった。結局、悩んでいるうちに決心がつかず、大学院に進学してしばらく研究の道を目指す事にした。その後、自分が外科系に向いていると判断し、今日に至ったのだが、その選択は正しかったと思う。 内科医と外科医の違い ある時、前クリニックで働いていると、内科医の夫を持つ看護婦さんと暇な時間に話がはずんだ。彼女は「久保先生、うちの旦那は暇さえあれば医学書を読んでいるんです。勉強が趣味みたいなんですが、久保先生もやっぱり、暇なときは医学書を読んでいるんですか?」と尋ねてきた。僕は「とんでもない。僕はあまり勉強は好きではないから。」と答えた。内科医は日頃から勉強を続け、最先端の知識を身につける必要がある。外科医は日頃から集中力を高める訓練をし、教科書からではなく実際の経験から技術を高めなければならない。外科手術の場合、誰一人として同じ症例はない。それぞれの症例に臨機応変に対応できる能力が必要だ。その際、へたに教科書を読んで、その通り治療をしようとすると、かえってうまく行かない事がある。あくまで、過去の経験に基づく感を大切にする方が良い結果が出る場合が多い。 内科医は普段からのコツコツと行う勉強が大切であり、外科医は実践の中で集中的に感を磨くべきで、外科医にとって、普段からの勉強は内科医ほどは大切ではない。だから、いつも外科医はいつも真面目に勉強している内科医に頭が上がらないところがある。しかし、外科医は自分たちのいざというときの集中力には自信を持っている。一口に医師と言っても、これほど異なる内科医と外科医の差は、一般的には認識されていない。しかし、この事実は医療の世界にどっぷりと足を突っ込んだ我々医師たちの共通認識である。

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