GINZA CUVO

2011年3月アーカイブ

経結膜的アプローチによるいわゆる"脱脂法"と当クリニックの"下眼瞼形成術"の相違点

本邦でこれまで行われていた経結膜アプローチによる目の下のクマ(くま)、たるみ治療(下眼瞼形成術)は、下眼瞼眼窩脂肪を脱出させるいわゆる"脱脂法"が主流であった。この方法の優れた点は表-3の如く手技が比較的簡単であることと、皮膚手術痕を残さないことである。

この方法が優れたアプローチであるにもかかわらず、広がりをみせなかったのは表-2で述べたように、脱脂法の際に用いる後隔壁アプローチでは、眼窩余剰眼窩脂肪を脱出させのみなので、年齢層が若く脂肪量が多い症例のみに治療適応が限られていたからである。

当クリニックで行う目の下のクマ(くま)、たるみ治療は、いわゆる"脱脂法"とは異なり、前隔壁アプローチを用いて図-4の如く、皮膚自体の挙上を阻害するLockwood's ligamentやWang Wei ligamentの処置を行い、皮膚を皮下組織から解離する。

図-4

図-4

この操作を行うことで、元々収縮能力を有する皮膚が自由になり、眼窩下部の皮膚が瞼板両側に靱帯で強靱に結合された眼窩上部に向かって挙上することになる。したがって表-3の如く、若年層の目の下のたるみのみならず、下眼瞼構造上不具合による皮膚の下垂が原因で目の下の色素や影が目立つ、いわゆる"目の下のクマ(くま)"や、"脱脂法"のみでは不可能であった皮膚自体のたるみの挙上が必要な中高年層までその治療が適応が広がった。

だがLockwood's ligamentやWang Wei ligamentの解離操作は個々の症例でその程度が異なるため、良好な結果を得るには多くの症例を経験し、いわゆる"勘所"を得る必要がある。このことは経結膜的下眼瞼形成術により目の下のクマ(くま)、たるみに悩む方々の幅広い症状に対して常に良好な結果を得るのは容易ではないことを意味する。したがってこの技術を習得するには多くの症例経験と、個々の治療成績の分析といったこの治療へのあくなき熱意がことのほか重要である。

表-3

方法

メリット

デメリット

いわゆる"脱脂法"

後隔壁アプローチによる眼窩脂肪脱出

手技が容易

若年層、脂肪量が多い場合のみ

当クリニックで行う系結膜的下眼瞼形成術

前隔壁アプローチによる眼窩脂肪先端部位からの最小限除去

皮下における皮膚支持組織解離による皮膚挙上操作

目の下のクマ(くま)、たるみ両方に対応可能

皮膚自体の挙上により幅広い年齢層への適応あり

手技取得が困難

目の下のたるみ治療について
目の下のくま治療について

過去に行われてきた皮膚切開法と当クリニックの経結膜的下眼瞼形成術との違い

従来まで一般的に行われてきた皮膚切開法を用いた下眼瞼形成術では、下眼瞼皮膚切除幅を過度に行うと下眼瞼の外反(いわゆる"あかんべー状態")が発生する危険性を伴うため、皮膚取り幅の決定は極めて慎重な姿勢が必要である。そのため皮膚切除量の決定は、座位にて開口及び上方注視させ、下眼瞼皮膚に最大限緊張を加えても外反しないよう配慮しなければならない。

さらにこの方法では、皮膚切除幅に配慮するのみでなく、治療手技自体も極めて慎重に行わねばならない。その理由は皮膚切開を行うと、眼輪筋と呼ばれる目の表情を司る筋肉及び、それを支配する顔面神経末梢枝に何らかの損傷を与えかねない。この損傷を最小限にに留めることがこの治療の正否に関わる重要なポイントとなる。

眼輪筋のように目元の繊細な表情を形成する筋肉に損傷を与えると、いわゆる"目袋"と呼ばれる眼輪筋の膨らみによる優しい目元表情を失ったり、下眼瞼の外反(いわゆる"あかんべー状態")を助長させる恐れがある。この事実が皮膚切開法を用いた下眼瞼形成術が、美容外科の中で最も難しい手術の一つと言われる所以であろう

また治療後の回復期間(ダウンタイム)がこの治療では遷延がこの治療を受けようとする患者の大きな障壁となっていることも言及する必要がある。下眼瞼皮膚切開を行うと、皮膚、眼輪筋、皮下軟部組織と侵襲部位が多くなるため、腫れや内出血を引き起こす可能性が高くなる。

下表-2の如く皮膚切開法では皮膚切除、皮下剥離、眼窩脂肪皮下軟部組織の処理、さらに皮膚縫合と手技量が多くなるため、治療時間が少なくとも90分と長引く。ダウンタイムは手術時間と比例すると言われており、当然手術時間の長びく皮膚切開法では回復が遷延する。

表-2

切開部位

治療時間

ダウンタイム

デメリット

皮膚切開法(過去に一般的)

皮膚、眼輪筋、軟部組織

約90分

10~14日間

傷跡残存、下瞼外反の可能性あり

経結膜法(当クリニックで専門的に行う方法)

結膜、軟部組織

約30分

3~4日間

特になし

筆者が美容外科研修を開始した2001年頃、この治療は皮膚切開法が主流で、筆者自身も皮膚切開法300例程行った。極めて慎重な姿勢で皮膚切開法を行う限り、傷跡や下眼瞼外反などの後遺症は、ほぼすべて回避することが出来たが、治療前のインフォームド・コンセントで治療のリスクを説明すると、患者さんがこの治療を拒むといった事態にしばしば遭遇せざるを得なかった。

また、通常のくま、たるみ患者さんの皮膚切除量決定に際して、下眼瞼外反の発生予防を最優先に治療を行うことが極めて重要だが、そのような配慮のもとに治療を行うと、実際の皮膚切除量は数ミリとわずかであり、皮膚切除の意味自体に疑問が余地が残った。

このような経緯から皮膚を切開法をせずに、目の下のクマ(くま)やたるみを改善する方法を模索していた筆者は、米国で経結膜的に行う下眼瞼形成術を見学し、この方法こそがリスクを伴わない優れた方法であると判断した。その後この方法を習得し、筆者は2005年4月から2010年12月まで、約5000例の目の下のクマ(くま)、たるみ解消目的に経結膜的下眼瞼形成術を行った。

この方法は皮膚とその直下の眼輪筋を損傷しない最大の利点がある。皮膚切開と眼輪筋を損傷しない限り、表-2の如く切開法に伴う最大の欠点であった傷跡残存や下瞼外反変形等を確実に回避出来る。また経結膜法の技術が洗練されると、治療時間は約30分と皮膚切開法に比較して1/3程度で治療出来る。また治療後のダウンタイムも1/3程度に短縮するので、治療に向けて長期休養を取る余裕のない多忙な現代人たちにとって、より好ましい治療と言えるであろう。


目の下のたるみ治療

目の下のくま治療

目の下のクマ(くま)、たるみ治療(下眼瞼形成術 )の手術進入アプローチ

目の下のクマ(くま)、たるみ治療(下眼瞼形成術)の進入アプローチは図-1の如く隔壁前方から進入する前隔壁(anterior-septum)アプローチと、その後方から進入する後隔壁(retro-septum)アプローチの2方法がある。我が国で従来まで行われていた、いわゆる"脱脂法"と呼ばれる経結膜的下眼瞼形成術は、後隔壁(retro-septum)アプローチであった。だが欧米諸国では前隔壁(anterior-septum)アプローチを用いることが多く、この技術を海外で学んだ筆者も前隔壁(anterior-septum)アプローチを用いて治療を行っている。

図-1

下眼瞼形成fig-1

この2通りのアプローチの意義を知るには、下眼瞼の解剖学的構造を理解しなければならない。図-2の如く下眼瞼皮膚直下には眼輪筋、その下に眼窩脂肪を眼窩内に収納する隔壁(septum)が存在する。中高年層に発生する目の下のたるみは、図-3の如く隔壁後部にある眼窩脂肪が加齢とともに弛緩した隔壁を前方に押し、皮下近くに脱出することが原因であるとされる。

図-2

下眼瞼形成術-2

図-3

下眼瞼形成-3

脱出した眼窩脂肪は、ある程度の可動域を有する前方先端部から滑り出し、後部眼窩脂肪は眼窩骨膜に比較的密に結合してるため後部脂肪は脱出しにくい。眼窩脂肪の前・後部にはこのような構造的相違があるため、前方から進入する前隔壁(anterior-septum)アプローチと、後方から進入する後隔壁(retro-septum)アプローチでは治療結果が異なる可能性が生じる。その違いを簡潔にまとめると、下表-1の如く特徴がある。

後隔壁(retro-septum)アプローチは眼窩脂肪に直達出来、技術的に容易であるためこの治療の初心者が用いるべきであろう。だかその適応は下表の如く、限定されていることを念頭に置かねばならない。 目の下のたるみの直接的原因は可動域のある眼窩脂肪前部であり、出来れば前部から脂肪除去を行うべきだが、後隔壁(retro-septum)アプローチでは眼窩脂肪後部から除去することになる。

つまりこのアプローチでは最前方部位からの脂肪除去が不可能となり、脂肪除去量を正確に決定出来ない。そのため、脂肪除去は控えめに行わざるを得ず、再発や不完全な治療結果をもたらしやすい。また治療適応も必要最小かつ正確な脂肪除去が必要な目の下のクマ(くま)や、皮膚自体の挙上効果が必要な中高年層の治療には不向で、皮膚弾力性に富んだ若年層の目の下のたるみのみがこのアプローチの適応となる。

それに比べて前隔壁(anterior-septum)アプローチは、隔壁前部からアプローチするので、目の下のたるみの直接的原因である眼窩脂肪前部(可動域を有した先端部)に直達するため、過不足なく余剰時脂肪を正確に除去することが出来る。したがって後方アプローチよりも治療適応が広がるのみならず、後述の如く眼窩脂肪支持組織を操作することで、後隔壁(retro-septum)アプローチでは不可能だった目の下のクマ(くま)や、皮膚自体の挙上が必要な中高年の目の下のたるみもこのアプローチで治療可能となる。

またこのアプローチでは、正確な脂肪除去が行えるため再発の可能性が少ない。ただしこのアプローチからの手技は、皮下支持組織の適切な操作が必要であり、後隔壁(retro-septum)アプローチよりも困難となる。前隔壁(anterior-septum)アプローチを用いて良好かつ安定した結果を得るには多くの症例経験が必要となる。

表-1

特徴

メリット

デメリット

前隔壁アプローチ

欧米諸国、当クリニックで用いられる

除去脂肪量が正確

すべての症例に対応

再発なし

手技獲得が困難

後隔壁アプローチ

いわゆる"脱脂法"で用いられる

手技が容易

除去脂肪量が不正確

限られた症例のみ

再発の可能性あり



目の下のたるみ治療について
目の下のくま治療について

目の下のクマ(くま)、たるみ治療(下眼瞼形成術)の歴史

美容外科は3000年以上前から古代エジプトで行われていた。鼻、唇の修正、さらには植皮術を用いた耳再建等の記載が古代紙、パピルスに記載されている。


眼瞼周囲の美容外科は紀元前400年頃のインドの記述、Susruta-tantraにに初めての記載があるが、眼瞼形成術は1818年、Von Graefeによって初めて体系づけられた。


1928年、Bourguetが後隔膜に位置する下眼窩脂肪の存在について記載した。さらに経結膜的アプローチ(皮膚切開を用いないで目の裏側から進入する方法)による下眼過脂肪除去術について述べた。


だがこの時点での経結膜的下眼瞼脂肪除去術(皮膚切開を用いないで目の裏側から進入する方法)の適応は、余剰皮膚がほとんどなく下眼窩脂肪が前方に突出した症例のみが適応であった。


そしてSir Archibald McIndoeが、1950年代に下眼窩脂肪の除去と一緒に皮膚切開法を用いる皮膚筋皮弁のリフトアップ治療を行ったところ、良好な結果が得られるようになった。この治療の人気は広がり、皮膚に余剰がある症例でも良好な成績が得られるようになった。


1990年代中半にはHamraが脂肪除去を行わず、眼窩縁靱帯を緩め、眼窩脂肪を眼窩縁に移動させることで、皮膚から突出した眼窩骨縁や、そこから鼻部に向かって伸びる溝形成を緩和させるという新手法を発表した。

だが皮膚切開法による目の下のクマ(くま)、たるみ治療(下眼瞼形成術)を行うと、下眼瞼縁の変形などの問題がある一定の割合で起こることが分かっている。


その主な原因は、皮膚切開時に眼輪筋に伸びる顔面神経末梢枝を損傷することで眼輪筋機能低下が発生し、瞼板が弛緩することで下眼瞼の外反傾向が起こるからである。

このように皮膚切開法を用いた下眼瞼形成術に伴う下眼瞼縁の変形や外反を予防するため、眼瞼縁外眼角部の支持処置の重要性が知られるようになった。


そもそも外眼角形成術や外瞼板抜去術は、外傷などなんらかの原因で発生した眼瞼縁の変形修正のための治療手技であった。近年これらの手技は、美容外科目的で行われる下眼瞼形成術にて、眼瞼縁変形の予防としての意義が証明され始めた。

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,1990年以降、下眼瞼切開法は中顔面の若返り治療としても用いられるようになった。このアプローチで広範囲に中顔面を剥離し、より大きな効果をもたらす治療が進化するにつれ、下眼瞼縁支持に関与する手法が中顔面挙上治療の中で重要な役割を占めるようになった。


一方、皮膚切開をしない経結膜的アプローチによる目の下のクマ(くま)、たるみ治療(下眼瞼形成術)は1928年のBourguetの発表以来、80年以上に渡り、ヨーロッパを中心に行われてきた。


また1970年代及び1980年代、北米にて数々の文献が発表されたが、ZaremとResnickの画期的な発表のおかげで、この手法が世界中で認知されるようになった。

経結膜的下眼瞼形成術の初期、この方法は若年層で脂肪のみが突出し、皮膚の弛緩がない症例のみの適応であった。近年その適応が中高年層にも広がり、多少余剰皮膚が存在する場合でも、良好な成績が得られるようになった。


特に皮膚切開法にしばしば伴う下眼瞼縁の変形等が発生しないため、その技術が確立されるにしたがい、この方法が大変良好であることが証明された。



目の下のくま治療概要

目の下のたるみ治療概要